瞬きさえも忘れていた。
「いえ、全然」

心とは裏腹に、無理矢理微笑みを貼り付けて返す。


中途半端な態度で期待させてしまったらどうしよう。

でもでも、誘われたからって、甲本さんが私のことを好きだとは限らない。そもそも、甲本さんの目的は一体何だろう?




『あんた、簡単にヤらせてくれそう――

――って、思わせてる』


岩本さんが冷ややかに口にした言葉がフッと脳裏を過る。



あれは本当に忠告だった……のかな……?

そんなことを思ったら、今度はとてつもない不安に襲われて、もう憂鬱どころじゃなくなった。



どうしよう、どうしよう、どうしよう。



移動中の車の中、食事中、終始そわそわしっぱなしで、何をしゃべったかなんて全然記憶に残らなかった。


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