瞬きさえも忘れていた。
会社から車で五分ほどの、お洒落なレンガ造りのイタリアンレストラン。


メニューに表示してある値段は気持ち高めだから、きっと美味しいはずなのに……。

彩り鮮やかで視覚的にも食欲をそそるはずの料理が、ほとんど喉を通らない。



そんな私を見て甲本さんは、

「梨乃ちゃん、少食だね」

なんて言って、プラス方向に解釈したらしく、目を細めて笑う。



私が甲本さんに対して抱いている、失礼極まりないこの気持ちに、甲本さんは全く気付いていない。


いっそ気付いてくれたらいいのに、って。

そんな他力本願な自分に、また凹む。



お会計は、甲本さんが「おごるよ」って言ってくれたけど、「いえ、ちゃんと自分で払います」と頑として譲らなかった。



キャッシャーに立つ店員さんは露骨に唖然とした表情をして、

「では、別々で?」

甲本さんをチラチラ見て気にしながらも、おずおずと私に尋ねた。


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