瞬きさえも忘れていた。
「お互い子どもじゃないんだし。自由な感じでさ、単純に楽しもうよ。束縛されない関係って、良くない?」



甲本さんの言わんとすることが、私にはいまいちピンとこなくて……。大慌てで脳みそをフル稼働させた。



そして。


「セフレ……ってことですか?」

甲本さんの顔を窺い見ながら、恐る恐る尋ねた。


「梨乃ちゃん、可愛い顔して何てことっ」

わざとらしくおどけて見せる甲本さんに、心底イラッとした。



「うーん、ちょっと違う。言葉じゃ上手く言えないなぁ……強いて言うなら――

――『身体の恋人』?」

そう続けて、甲本さんはヘラリと笑った。



「ふざけないでください。『セフレ』と何が違うんですか? 帰ります。今日はありがとうございました。さようなら」

開きかけの助手席のドアを更に押し開けて車を降りようとすれば、再び手首を掴まれ引き留められる。


< 58 / 255 >

この作品をシェア

pagetop