瞬きさえも忘れていた。
「どうぞ」

意識的に微笑んでそう言うと、

「別に……それ終わってからで良かったのに」

と、心なしか不機嫌な声が返って来た。


譲ってあげたのに何故だか彼は不満げだ。



けれど彼がゆっくりこちらへ近付いて来たので、右に一歩移動して、コピー機の真ん前を彼に譲った。



礼も言わない彼に、何だかちょっとモヤッとして、背の高い彼を見上げ、

「これ、まだまだ時間掛かりますから」

と、譲った理由を主張してみる。



手にしたＢ４用紙をコピー機にセットしながら、彼は隣の私を見下ろした。



ヘルメットを被っていたせいで乱れた黒髪が、更に汗で湿って彼の頭は大惨事だ。


奥二重でやや細めだけどハッキリした目、その中の瞳は引きずり込まれそうなほどに黒い。


だからか、涼しげな無表情が妖しくて神秘的だと思った。


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