瞬きさえも忘れていた。
彼は、ミステリアスな雰囲気を纏っている。


一瞬にして惹かれてしまったのは多分、私が女だからだ。



瞬きも忘れて見とれていると、彼は表情一つ変えず、

「ここ涼しい」

ポッツリ呟いた。



私のさっきの主張は彼の鼓膜には届かなかったのでしょうか……。



不思議に思いつつ、

「そうですね。寒いぐらいです」

と、また意識的に笑みを浮かべて言えば、

「現場来てみれば? ここが天国に感じる」

と、彼は至極冷ややかに私を見下げた。




『別に……それ終わってからで良かったのに』



ああ、だから……彼は少しでも長くここに居たかったのだ、と。今更だけど気付く。


私は、余計な気遣いをしたのだ、と。


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