瞬きさえも忘れていた。
「そんなのわかってます」

冷ややかに返しつつ、後ろの荷台に私も跨った。



岩本さんは私を気遣ってか、ゆっくりとペダルを踏む。そうして徐々にスピードを上げた。



二人乗りなんて、久し振りだ。高校生の時以来じゃないかな。



「今日は優しいんですね」

目の前の背中に話し掛ければ、

「鳴瀬さんは、今日冷たい」

と、笑い混じりに言い返された。



「岩本さんの冗談がつまんないからです」


「そっか、ごめん」


「今日は素直なんですね」


「鳴瀬さんは、今日意地っ張り」


「意地なんか張ってないです」


「そっ?」


「そう!」



そしてほんの少しの沈黙の後、再び岩本さんが口を開く。


「泣きたい時は、泣いた方がいい。今日、俺が優しいのは多分――

――鳴瀬さんが泣きそうな顔してたから」


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