瞬きさえも忘れていた。
繋いでいた手がフッと緩んで、慌てた私はその手にぎゅっと力を込めた。



そろそろと隣の岩本さんを見上げれば、ほんの少し眉根を寄せた困り顔で私を見下ろしていた。


そして、

「乗ってくれないと、送れない」

至極当たり前のことを口にする。要はこれ、『手を離して、とっとと車に乗れ』って意味だ。



「まだ……帰りたくないです」

溢れ出した愛しさにのせて、ありったけの想いを口にした。



もう我慢できない、したくない。

岩本さんの優しさに期待してしまう自分が惨め過ぎて。



今ここで全てをぶつけて、そしてここで散ろう。

突発的にそんなことを思った。



自分本位で我が儘なのは百も承知だ。でもこの激情を止めるすべが、他に見付けられないから仕方がない。



好きです、岩本さん。


――――大好きです。


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