瞬きさえも忘れていた。
「今取らなくても、」

そう言って、艶やかに目を細めた岩本さん。美しい無表情を微かに緩め、淡々とした口調で続けた。



「――――花火の後、結局それ、俺が取ることになるんだけどね?」


そして、満足そうに薄く笑む。



最初、何を言っているのかわからなくて。

ポカンとしてただ、目の前の岩本さんの顔を見詰めていた。



けれど、その言葉が頭の中でじわじわと意味を成して来ると、顔が熱を帯び、そのせいか視界の縁がぼんやり霞んだ。



そんな私を見て岩本さんは、フッと静かに吹き出してクツクツ笑い出した。

むっとして膨れたけど、顔の熱はどうにも冷めてくれない。


悔しいのと恥ずかしいのとで涙目になりながら、目の前で愉しげに肩を揺らす彼を、ただ黙って見上げていた。



「ごめん、今の忘れて」

笑いを噛み殺しながら、それでも漏れ出る笑い声の合間にそう言うと、岩本さんは私の手を優しく包み取った。


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