瞬きさえも忘れていた。
「行こ？　場所がなくなる」

歩き出した岩本さんは、前を向いたままそう言った。


手を引かれて半ば強引に歩かされながら、斜め前の岩本さんの横顔を眺めていた。必死で笑いを堪えていると丸分かりのそれに、無性に腹が立った。



「鳴瀬さんは、すぐムキになる」

意地悪な横顔から紡がれた柔らかい声。


また悪口ですか、と反論すれば、

「違う」

と、即否定された。



何が違うんだ、と。不満は益々膨らんで、ふくれっ面のまま、こちらを見向きもしない岩本さんを、じぃっと睨みつけていた。



「そんな風にいつも全力なとこ、可愛いと思う」

言って、一瞬だけこちらに甘い視線を寄越し、けれどすぐに逸らして俯き、ククッと堪えきれなかったみたいに笑いを漏らす。


再び顔を上げて前を向いた時には既に、岩本さんは真顔だった。



もう……。

どんなリアクションをとったらいいか分からない。すごく困るんですけど。


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