瞬きさえも忘れていた。
「岩本さん、狡い」


「何が?」


「意地悪」


「どこが?」


「全部」


「そっ? 正直なだけだと思うけど」


そう言ってようやくこちらに向けてくれた顔は、余裕たっぷりの涼しげな微笑を浮かべていて。

めまいを起こしそうなほど美麗なそれに、胸の奥がきゅっと締め付けられた。



「そういうとこが、狡いんです」


我ながら意味不明な苦情だと思う。だけど……。


さり気なく、しかも私が否定できないような言い回しで、甘い言葉を連発する岩本さんは、やっぱり狡いと思う。



繋いでいる手にぎゅうっと力を込めて無言の反撃。


「痛いって」

ボソッと小さく呟いて、岩本さんは困ったような苦笑を浮かべた。


けれどそれは怒っているでもなく、本当に困っているでもなく。

ただ、私をからかって楽しんでいるだけだと一目でわかる。


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