星の輝く夜空の下で


夏芽の焦点の合わない目が元に戻った


「へ…」


夏芽は涙が零れてそのまま力が抜けてしまい、床に膝をつき座り込んだ
身動きの取れなかった春実も力はあまり入らないが動かせるようになった
これが怨念の力なのかもしれない
あまり影響のなかった星夜が口を開いた


「…死にたいなんて簡単に言うなって朱子ちゃんが言ったんじゃないか」

「……」

「生きる意味だって教えてくれた」

「……」

「やっと、生きる意味を知り始めた生きようとしてるヤツを死の世界に連れていくなんておかしいだろ…」


朱子は星夜を睨んだ


「分かってるよ!!だけど、夏芽と離れるなんて嫌。でも、祐希(ユウキ)を追いかけたい。あたしのこの苦しさなんてわからないくせに適当なこと言わないでよ!!」

「ゆうき…?」


春実が聞いた


「そう。あたしが生きてるときの恋人。未練の原因もその人。成仏したい理由もその人。」

「何で成仏したいの…?」

「死んだの!!祐希…死んで幽霊にならないで天国へ行っちゃった。あたしがいるから死ぬのは怖くないって天国へ行っちゃった。だから早く追いかけたいのに…」


朱子は動かない夏芽を睨んだ


「夏芽と出会わなければ良かった!!あの時、夏芽なんか追いかけなければ今こんな風に迷ったりしなかった!!」


「朱子ちゃん…そんなこと言わないでよ」


自暴自棄になる朱子を誰も止められない
その時の一粒の涙が朱子の頬から零れ落ちた
またひとつ落ちた
涙は次第に止めきれなかった蛇口の水のように零れる


「何で夏芽がこんなにも大好きなのよ!!」


誰も何も言えなくなった
朱子の息切れだけが響いた


「…天国」


今まで力尽きて動けなかった夏芽が口を開いた


「天国…」

「夏芽!?」


春実が夏芽に駆け寄った


「天国行きなよ…」


誰もが夏芽の言葉に反対しようとした
しかし夏芽は反対を押しきってうまく出せない声を出した


「あたし、もう寂しくない」

「夏芽…」

「朱子と出会えて良かった」

「何でそんなこと言うの!?あたしは夏芽に酷いこと言ったのに、何でそんな優しいこと言うの?」

「朱子は親友だから…」


夏芽は疲れた顔で笑った
朱子は止まったはずの涙がまた溢れ出した


「笑わないでよ…。台風が来るじゃんか…」

「来ないよ…」


夏芽は深呼吸した


「…あたしだっていつか死んじゃうんだからさ、天国で待っててよ…。あたしが死ぬときは未練なんてないよ。…朱子が天国にいるなら」

「夏芽…」


朱子は涙を拭いた


「夏芽、大好きだよ。天国で見守ってるから」

「…うん」


朱子は夏芽を抱きしめた
感覚のない夏芽も今日だけは温もりを感じた
朱子の体が光となって溶けていく

「ありがとう」


朱子は消えた
成仏した
大切な恋人にきっと会えた


「成仏したんだ…」


春実が呟いた
喜んで夏芽の肩を叩くと夏芽は抜け殻みたいに動かなくなった


「夏芽!?どうしたの!?ねぇ、返事してよ夏芽!!」


すると寝息が聞こえた


「…なんだ、寝たのか」


ホッと息をはいた
ふと、後ろを振り向くと星夜が呆然としてた


「星夜くん…?」


春実の声にはっとした


「どうしたの?」


「あ、いや、別に」


星夜の頭を巡る言葉


大好きだよ。天国で見守ってるから


聞いたことがあるような
言われたことがあるような
そんな気がした



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