ある小説家の苦悩
外の新鮮な空気を吸うのは久しぶりだ。


ここ数日、家に缶詰め状態であったから。


陽射しは強いが、汗ばんだ肌を撫でる風は心地よい。


あちこち視線を移しながら川沿いの道をゆっくりと歩いて行くと、グラウンドで児童達が野球をしている光景が視界に入った。


無邪気で楽しそうな笑い声。

虚勢を張って飛ばし合う野次。


微笑ましい気分になるのと同時に、もう二度と自分には戻らないであろう瞬間を生きている彼らの姿に、甘酸っぱい感傷も湧き起こってくるのだった。


ほどなくして、目的地へとたどり着いた。

デパートや多くの個人商店が軒を並べている、街のメインストリート。

その通りの中ほどにある老舗の喫茶店が、相手との待ち合わせ場所だった。


私の申し入れでそこに決まったのだ。


世間は夏休み。

さらに今日は日曜日。

多くの家族連れの姿が目についた。


若干人に酔ってしまったようで、クーラーのきいた店内に足を踏み入れた瞬間、思わず安堵のため息を漏らす。
< 2 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop