あの空の音を、君に。
「私があなたを笑顔にさせる――っ!」
私の言葉をききとった彼の表情に、驚きの色が出ている。
我ながら、何を言っているんだろうと思う。
ついさっき、わからないって言ったところなのに。
でも、このままじゃいけない気がした。
目の前の人を、放っておいてはいけない気がした。
「あなたの、名前は?」
春独特の優しい風が、私達の頬をなでた。
それを確認したかのように、彼はゆっくりまばたきをして、それから言った。
「岡村伊月(おかむらいつき)」
それと同時に、彼が柔らかく微笑んだ。
そして、時間が再び動き出し、彼は鉄の扉の奥へ消えていった。