あの空の音を、君に。



海くんは、答えそうにない私をチラッと見て

「ま、答えたくなかったら答えなくていいんだけど。伊月もそうだったし」

と言った。


カシャッと音を立ててフェンスをつかんだ海くんは、ここからの景色を眺めていた。



「俺、中学のときから伊月と塾一緒で知り合いだったんだけど。あいつがあんなに落ち込んだの、耳が聞こえなくなったとき以来だった」



中学のときからの知り合い。

初めて知った。


海くんはきっと、私よりも伊月のことをよく知っているんだ。



「なんかさ。あいつ、妙に負けず嫌いで。吹奏楽できなくなったときも相変わらずかっこつけてたし」



遠い過去を思い出すように、海くんは空を見上げていた。

私の今の気分には程遠い、汚れのないきれいな真っ青な空を。


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