あの空の音を、君に。



「でもあいつ、手にしたものは簡単に手放せない性格で。楽器も大切に持ってるらしいし、吹奏楽してたときの写真もちゃっかり机の隅に飾ってあった」



伊月のことを何も知らないということを、今改めて知った。

負けず嫌いなのも、辛い過去さえも大切にすることも。


彼女だったくせに、何も知らなかった自分に腹が立つ。



「だから、さ」



海くんが、一瞬言うか言わないか迷っている。



「だから、何?」



ここに来て、初めて声を出した。


そんなこと海くんは気にもとめず、私の目を見つめて言った。



「伊月は涼ちゃんのこと、まだ想ってるよ」


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