あの空の音を、君に。



「もう絶対治らないの?」



優花がいすから立ち上がってそう言った。



「今の状態でも奇跡的だって。すぐに聞こえなくなる。治る確率は、ゼロに近い」



冷静に答える伊月を見るのが悲しかった。



ほんとは悲しいくせに。

今にも泣き出しそうな顔してるくせに。

もう、心もボロボロなくせに。



伊月は、自分ひとりで何もかも背負い込んでる。

強がりなだけ。




「バカ」




勝手に動いた口を、伊月は目をまん丸にして見つめた。


< 264 / 315 >

この作品をシェア

pagetop