あの空の音を、君に。
「俺はもう傷つかない」
言い返した伊月の目が、お母さんをまっすぐに見つめていた。
鋭く、強く。
「確かに、音楽をすることは難しいかもしれない。でも、その可能性はゼロじゃない」
「でも――……」
「最後くらい、俺のわがままきいてよ」
伊月の訴えに、お母さんが口を閉じた。
「おばさん。伊月のお願いきいてあげて。伊月、もう充分傷ついたよ」
優花が泣きそうな顔でお母さんに訴えた。
『もう充分傷ついた』
伊月は、私が出会う前から傷ついていた。
私は目の前の吹奏楽から逃げ出したかったためだけに、吹奏楽をやめた。
でも伊月は、やめざるを得なかったんだ。