あの空の音を、君に。
私は音楽から逃げた。
恐怖に追われるのが嫌で。
なのに、今さら音楽を悪く言われていることに腹をたてているなんて。
自分勝手にも程がある。
「なぁ。優花、柚木」
突然、伊月が優花と流星の名前を呼んだ。
伊月も流星も、苗字で呼び合っていることに今さらながら気づいた。
「涼と2人で話したいんだけど」
私の名前をだされ、少しばかり動揺する。
「悪いけど――」
「わかった」
伊月の言葉を遮り、優花が頷いた。
優花の返事をきいた流星は、今までひいて歩いていた自転車にまたがった。
「乗れよ」「いい。陸部だし、走るから」2人のやりとりが短く交わされた。
「悪ぃな」
「ほんとだよ」
そう言って振り向いた流星は、真っ白な歯を見せて笑った。