あの空の音を、君に。



「何がって――ソロコンテストでも金賞とるレベルでしょ。高校でも大学でも続けて、うまくいったらプロにもなれるかもしれないんだよ?」



私がすがりつくようにそう言った。

それでも、伊月の表情は固まったまま。



どうして……?





「音楽はそんなあまくねぇよ」





やっとの思いで絞り出したような声だった。


響きがない伊月の声をきくのは、これが初めてだった。


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