あの空の音を、君に。



しばらく、私は何も言わなかった。


いや、正しくは、言えなかった。

この場の空気が、私を躊躇していた。




その空気が破られたのは、やっと耳になじんできたチャイムの音だった。



「あの、さ」



チャイムが鳴り終わってまもなく、伊月の口が開いた。



「俺のことはもういいから。気にすんな」



そう言う伊月は笑っていたけど、どこか悲しそうな顔をしていた。


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