あの空の音を、君に。
「じゃ、俺教室戻るわ」
「うん。私、もうちょっとここに残ってく」
伊月は私を笑顔で見下ろすと、ゆっくりと扉へ向かって歩き出した。
そして、ケータイをポケットからだし、歩きながらいじり始めた。
そんな器用なこと、私にはできない。
私がそんなことしたら、3秒後には何もないところでつまづいているだろう。
なんてことを考えていたら、いつのまにか伊月の後姿は屋上の扉の奥へ消えてしまっていた。
伊月が消えた扉をじっと見ていたら、昔の声が頭の中に響き渡った。
「俺、将来はプロになるから」
笑顔で、かつ真剣な表情で、私にそう言ったあいつ。
それが、あいつが私に最後に言った言葉だった。
それを思い出したら、涙が目にたまってきた。
いやだ。もう決めた。あいつのことで泣くのはやめるんだ。
私は、あいつのことなんか忘れて、のんびり過ごしていくんだ。
涙がこぼれないように、目を大きく開けて上を向いた。
目の前には、あいつが消えた日と同じ、真っ青な世界が広がっていた。