禍津姫戦記
 姫夜は自分のうちにわきあがってくる狼狽をおさえるのに必死で、こたえることなどできなかった。
 言葉は、わかる。
 だが、男の剣の柄に彫られた唐草の文様も、刃の反りも形も、姫夜が知っているものとは違う。
 いったい、ここはどこなのか。
 じわりと手のひらに汗がにじんだ。
 男は云った。

「おかしい。酒を喰らって眠りこけていたのならともかく、俺はずっと眼を覚ましていた。空を飛んできたというなら話は別だが」
< 10 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop