禍津姫戦記
 薬草の籠をかかえた那智が梅の木の下に立っていた。那智はハバキのそばにすわって、摘んだばかりの薬草を寄り分け始めた。

「ハバキさま、覚えておられますか。母君が亡くなられた晩のことを」

「母者が? 俺は五つかそこらだっただろう」

「はい。真夜中に一人で館を飛びだして、朝になっても戻らなかった。あのときのクラトどののうろたえぶりときたら――」
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