禍津姫戦記
「兄上」

 涙が姫夜の手の上にこぼれ落ちた。

 しかし、その火は兄の伊夜彦(イヤヒコ)の手で放たれたものだった。

 ヒュウガにあるなかでも、戸数百にも満たない集落であるワザヲギの里は、ずっとモモソヒメにまつろうことを拒み続けていた。

『モモソヒメはこれ祖(おや)、これ宗(きみ)、尊きことならび無し。
因りてそれよりほかの諸神は、すなわち子、すなわち臣、たれかよく敢えて抗(さから)わむ』

 再三送られてくる使者に対して、のらりくらりと返答を引き延ばしにしてきたのだ。

 そして今日――ついにモモソヒメはこの里に兵をさしむけた。

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