禍津姫戦記
 姫夜は兄が多くは語らなかった理由もすべて飲み込んで、目に強い光を浮かべてうなづいた。

「そなたがどこへ《跳ぶ》かはこの兄にもわからぬ。だができうるかぎり遠くへ、まだモモソヒメの手の及ばぬ地へ導かれるよう、兄が祈る」

 姫夜は必死で恐怖をおさえ、できるだけ凛と声を張った。

「兄上はどうなさるのです?」

「私は宮が残らず焼けたかどうかを確かめてのち、穢された神を封じにゆく。今まで我らを守ってくれた神も放っておけば邪霊となって地をさまよい、人に禍をなすだろう」

 伊夜彦は言霊が力を持つのを恐れ、口をつぐんだ。

 轟々と、地が揺れた。

「なにかが来る……!」
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