禍津姫戦記
 月は山の端にかくれた。
 約束の夕刻になっても、那智とクラトは戻ってこなかった。いつのまにか空はどすぐろい雲に覆われている。
 ハバキの表情は表面は変わらなかったが、胸の内はじりじりと不安に焼かれていた。

「――くる」

 姫夜の声に、ハバキはぎくりとして振り返った。姫夜は半眼になって云った。

「ヤギラはこの磐座にむかっている」
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