禍津姫戦記
「そのような命は、やつかれは受けておりませぬ」

「もしわたしがこのまま立ち去ろうとしたら何とする」

 クラトはうっそりと立ち上がり、板戸を開けはなった。その部屋は近くの谷川の水を引き込んだ遣り水の流れる、小さな奥庭に面していた。

「お止めはいたしませぬ。ですが若長はお怒りになられましょう」

 姫夜は立ちあがって、青竹の垣で囲まれ、皓々と月明かりに照らされた庭を眺めた。
 梅の木の間を流れる水には、手で掬いとれそうな明るい月が映っている。
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