禍津姫戦記
 幻視にとらわれかけた姫夜はふっと我に返った。

「でも……わたしはまだ一人で馬に乗ったことが……」

「さほど遠くない。ゆっくりついてこい」

 ハバキは姫夜を軽々と白い馬の上へ乗せ、自分は黒い馬、ハヤテにまたがった。
 久しぶりに外に出て、冷たく澄んだ空気を胸一杯に吸いこむと、重たく心にたれ込めていた雲が晴れていくようだった。馬の高い背から眺めるカツラギの里は美しかった。小高い丘の上でハバキは馬をとめた。
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