禍津姫戦記
「云いたくないなら云わなくてもよい」

 ハバキと那智のほかは、姫夜と口をきこうとするものはいない。ハバキのそばちかくにつかえるクラトにしてもあきらかに自分が間諜ではないかと疑っている。
 姫夜は顔をあげ、怒りと痛みとが綯い交ぜになった声で云った。

「これだけは云える。モモソヒメはわたしがいた里を滅ぼした。父も母もモモソヒメに殺された。まつろわぬ民の生き残りとして追われこそすれ、わたしが間諜などということだけはあり得ぬ」
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