溺愛MOON
同じだけ想ってはもらえない。

そんなのは片想いと一緒だ。


波が私を慰めるように心地良い音を奏でる。

しばらく波打ち際にしゃがんでそれを聞いていた。


「香月」


だから不意に聞こえた声に、一瞬幻聴かと思って耳を疑ってしまったほど。

だけど振り返ればそこにはかぐやが立っていて、いつの間にか私の傍まで歩いてきてたらしい。


もう私は泣いてはいなかった。

鼻を啜って立ち上がる。


かぐやに何を言われるんだろう。

何にしろ、いい話じゃないことは確かだ。


「これ」


かぐやがすっと差し出したのはさっき私が投げつけたバッグだった。


「カギないと部屋に入れないだろ」

「……ありがと」


そんなこと言う為にわざわざ来てくれたのかな。

大切なことは何一つ話そうとしないかぐやに小さく失望する。
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