溺愛MOON
悲しみと不安がごちゃ混ぜになった私が、理性を保って仕事を続けられたのは、ここが唯一の島の出口だったからかもしれない。
つまり島を出るには必ずここを通るはずで――、知らないうちにかぐやがいなくなっちゃうっていう最悪の事態だけは避けられるって思いがあったからかもしれない。
船の発着時刻が近づく度に眩暈(めまい)のような、頭痛のような吐き気にも似た感覚が私を襲う。
ぐらぐら揺れるような視界で通り過ぎる人達の足元をじっと見つめるけれど、稲垣さんの黒い革靴が通り過ぎることはなかった。
そして観光案内所を閉める18時を過ぎても、稲垣さんもかぐやも港に姿を現さなかった。
定時と同時に観光案内所を飛び出した。
こうして長屋に向かっている間にも、かぐやが長屋から出て行ってしまうんじゃないかと思うと、胸が痛くて痛くて、勝手に涙が頬を伝った。
壊れそうな勢いで、かぐやの部屋の引き戸を開けて中に飛び込んだ。
かぐやはそこにいた。
いつものように。こちらに背をむけて胡坐をかいてちゃぶ台の前に座っていた。
つまり島を出るには必ずここを通るはずで――、知らないうちにかぐやがいなくなっちゃうっていう最悪の事態だけは避けられるって思いがあったからかもしれない。
船の発着時刻が近づく度に眩暈(めまい)のような、頭痛のような吐き気にも似た感覚が私を襲う。
ぐらぐら揺れるような視界で通り過ぎる人達の足元をじっと見つめるけれど、稲垣さんの黒い革靴が通り過ぎることはなかった。
そして観光案内所を閉める18時を過ぎても、稲垣さんもかぐやも港に姿を現さなかった。
定時と同時に観光案内所を飛び出した。
こうして長屋に向かっている間にも、かぐやが長屋から出て行ってしまうんじゃないかと思うと、胸が痛くて痛くて、勝手に涙が頬を伝った。
壊れそうな勢いで、かぐやの部屋の引き戸を開けて中に飛び込んだ。
かぐやはそこにいた。
いつものように。こちらに背をむけて胡坐をかいてちゃぶ台の前に座っていた。