溺愛MOON
「香月……」


名前を、もっと、いっぱい呼んで。

その掠れた声で。


もう私は「離れないで」とは言えなかった。

確実に来る別れの時を前に、かぐやを困らせるよりも愛を感じていたかった。


こういう所が私はダメなのかもしれない。

私みたいな女は都合良く扱われて、捨てられちゃうのかもしれない。

かぐやがそんな人だとは思いたくないけど……。


「今日、島の手伝い……。行かなくていいの?」


まだぼんやりと薄暗い夏の夕暮れで、かぐやと二人、タオルケットに包まれて余韻に浸った。

かぐやは……、ほんと残酷……。


「今日は中条さんに体調悪いって伝言頼んだから大丈夫」

「そっか。どっか痛い……?」


私は少し微笑って首を振った。
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