溺愛MOON
月明りに彼の喉元が照らされる。

細いその首筋が白く光って、上を向いているせいで強調される喉仏がやけに色っぽかった。


ドキドキした。

心を奪われてしまったかのように。


目が彼に釘づけになる。


彼はそのまま長い前髪を掻き揚げると、ずぶぬれのまま砂浜を歩き出した。


前髪に隠れてよく顔は見えないけれど、思っていたよりもずっと若い。

同年代か、もしくは年下かも。


どうして、海から現れたんだろう……。


私は彼を見つめ続けているのに、向こうは私なんかここに存在していないかのように、一度も私のことを見なかった。

そしてそのまま私の数メートル脇を悠然と歩いて道路の方へと上がって行ってしまった。


彼がいなくなり、浜辺が先程の静寂を取り戻したところで、私はハッと我に返り慌てて道路へと駆け上がったけれど、既に彼の姿はどこにもなかった。
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