溺愛MOON
「……え?」


数秒の沈黙の後、やっと絞り出した言葉は間抜けな声音で暗暗い部屋の中に響いた。


目を丸くしてかぐやを見つめる私に、かぐやは顔を近づけて擦り合わせるように唇を合わせてくる。

私はされるがままにその行為を受け入れながら、混乱する頭を必死で働かせようとしていた。


香月も来るって……。


「ドコに……?」


唇が離れた後、震える声で尋ねるとかぐやは瞳に優しい色を宿して囁くように言った。


「月の世界」


あぁ、かぐやはやっぱりこの世の人じゃなかったのか……、とその真っ黒な瞳を見つめながらそう思った。

だけどそれは一瞬のことで、もう私は目の前の現実からは逃げられない。


かぐやの嘘つき。


かぐやは私を連れて行かない。

そんな確信があるのはかぐやが瞳の奥に悲しい光を宿しているから。

その言い方が真剣じゃないから。
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