溺愛MOON
この島で多くの人達にたくさんの良い思い出を作ってあげたい。

いつの間にかそんな想いで観光案内所の窓口に座るようになった。


島の良い所を観光客に懸命にアピールするようになった。

私はいつの間にか自分で引いた島との境界線を飛び越えて、島側の人間になっていた。


自分でも気づかなかったその変化に、かぐやが気づいていたことに私は驚いていた。

だって、観光案内所での私をかぐやは知らないのに。


かぐやは無口な分、人を見抜く洞察力が鋭いのかもしれない。



だけどそれでサヨナラなんて、そんなの。


「嫌だよ……」


かぐやは駄々をこねる私の背中をそっと優しく撫でる。

嫌だ。


私に別れを理解させないで。


「俺なんて一歩間違えばニートだし」

「え……」


ふっと微笑うかぐやの台詞は今まで聞いたことがない、リアルな彼の生活を示すもの。

胸がざわざわと騒いで仕方なかった。
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