溺愛MOON
「そんでも何もする気にならなくて、死んだみたいにボーッと過ごしてればそのうちあいつらも諦めて、自由の身になれるんじゃねえのってそう思ってた」


かぐやの心臓の鼓動がいっそう早くなって緊張を伝えてくるから、私はかぐやの背中に回した手でさするようにその背中を撫でた。


「でも香月に会って、変わってく香月を見て、俺も変わりたいって思うようになった。香月ともっと一緒にいたいし、もっと笑顔を見たいって思った」

「私……、私もかぐやと一緒にいたい……!」


また涙声になる私の背中を、今度はかぐやがポンポンと叩く。


「香月は何もかも捨てて俺と一緒に来れないだろ……? 今の俺は何の力もないし、未来の保証も生活の保証も、何もしてやれない」

「……」


私は何も言えなかった。

臆病な私は恋愛だけに溺れられない。


島を捨てる勇気が出ない。


安定志向で、レールから外れられない。

その癖、おとぎ話の王子様が迎えに来てくれるって現実味のない夢ばかりを見ている。


それが私。
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