溺愛MOON
「最後の最後に言うなんて……、ズルいよ……」

「香月は?」

「え?」


絶対中条さんが凝視してるだろう視線を背後からビシビシと感じる。

でも言わなきゃ、伝えられるのは最後になってしまうかもしれない。


「好き。大好き」


なるべく聞こえないように上目使いで囁くと、かぐやは満足そうに笑って、私を一瞬強くギュッと抱きしめるとパッと手を離した。


あっ……と思ったときにはかぐやは軽快な足取りでスーツの人達を追い越し、船の中へと消えて行った。


エンジン音を轟かせながら高速艇はゆっくりと桟橋を離れ、やがて見えなくなって行った。


「行っちゃった……」


別れは思ったよりもあっさりしたもので、もうこれで会えないなんて実感はまるでわかなく、ただぼんやりとしていた。
< 140 / 147 >

この作品をシェア

pagetop