溺愛MOON
――俺、監禁されてんだ。


いつもどこか投げやりなかぐやが頭に浮かぶ。

かぐやはまた「書く」ことを選んだんだろうか。


じっとりと汗ばむ夏の夕暮れを、高橋さんが持たせてくれた干物を持って長屋に帰る。


暑い。


かぐやがいなくなった喪失感と相まって余計身体がダルく感じる。

蝉の音がやけに耳につく。


いつものクセで私はかぐやの部屋の引き戸に手をかけて、ハッと手を止めた。

ゆっくり力を入れてみると、そこにはもう鍵がかかっていて開くことはなかった。


こうして、だんだん、かぐやがいないことが現実味を帯びて行く。


家に帰ると、テーブルの上にかぐやからの置き手紙があった。

私のシステム手帳に汚い文字でなぐり書くように残された言葉。
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