溺愛MOON
「えっ!?」


彼は勢い良く走ってきた私にビックリして声をあげた。


その人は長い長い釣り竿を持っていた。

それを沖の方まで伸ばして糸を垂らしていて――、これはキス釣りだ。


何を釣っているか分かるなんて私も詳しくなったものだ、なんて――、


「……すみません、人違いでした……」


そんな場合じゃない。

彼は「彼」じゃない。


はっきり顔を見たわけじゃないけど、もっと華奢で雰囲気あって……。

って段々私の脳内で「彼」が美化されてるだけかもしれない。


私はしょんぼりとうなだれたまま彼の後ろを通り過ぎた。
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