溺愛MOON
貰った魚をつまみに梅酒を飲むのも悪くない。

けれど今日こそは海辺に出かけるのだ。


私は焼き魚とおばちゃんから貰った煮物で簡単な夕食を済ませると、窓を開けて暗くなるのをひたすら待っていた。


今日はアルコールは飲まない。

人魚と会って、お話するのが今日の目標だ。


現実的に考えれば、あの男の人はどこかの民宿かホテルの宿泊客で、もう帰ってしまった可能性が高い。

けれど、私は海で待っていれば絶対彼に会える気がした。


むしろこの気が滅入ってしまうばかりの日常で、何か非日常的なワクワクすることを自分で見つけないと駄目になってしまいそうな気がした。


陽が落ちるギリギリの薄明かりの中、私はサンダルを履いて浜辺へ下りて行った。

波は今日も穏やかだ。


薄明かりの海って好き。

今まで行ったことがあったのは昼間の海ぐらいだった。


海に陽が沈んで行く美しい景色は、実際に目にすると何度見ても心を奪われる。
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