溺愛MOON
また彼の顔がこちらに戻ってくる。

その表情はいまいち掴みにくいけれど、おそらくポカンとしている。


私は急激に恥ずかしくなった。


頭のおかしい女だと思われたかもしれない。


「海の中じゃ呼吸ができない」


けれどくぐもった声でボソリと彼は答えた。

すこし掠れた高くも低くもない声だった。


「そう……。息、できないんだ……」


私は彼が人魚じゃないことに少しガッカリしていた。

けれどそれ以上に会話ができたことが嬉しかった。


彼が普通の人間だったとしても。

素敵な返しだ。


頭おかしいんじゃないの? でもなく、無視されたわけでもない。
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