溺愛MOON
かぐやは目的地に着くと、ジーンズのポケットから鍵を取り出して開け、ガタガタと建てつけの悪い引き戸を揺らした。

私の部屋の、右隣の戸を――。


やっぱりどこの部屋も建てつけが悪い――、って、


えぇっ!?


「ネ、ネズミ王子!?」


かぐやは返事の代わりにプッと笑った。


「絶対そう言うと思った」


言いながらかぐやは部屋の中へ入って行ってしまう。

私は慌ててかぐやの了解も得ずに後に続いて部屋へ入った。


「う、嘘だよ! お隣は空き家だよ!」

「この前、引っ越した」


かぐやはいつもの調子で淡々としゃべりながら洗面所へ入って行く。
< 56 / 147 >

この作品をシェア

pagetop