溺愛MOON
長屋の前にある小さな庭のプランターには、管理人のおばちゃんが植えたゴーヤの芽が飛び出している。

これが夏になると蔓が伸びて、それを網に這わせると日よけになるんだそうだ。


エコロジー。


クーラーガンガンに効いた都会のオフィスが懐かしい。

長屋には当然、クーラーなんてない。


この夏を乗り切れるだろうか。

ほんとボロいなぁ……。


私は長屋の前まで歩きそこで足を止めた。


「……」


ちょうどいいや、着替えに帰ろう。

遮るもののない六月の日差しはじっとりと私の額に汗を滲ませていた。


本当は日焼けしたくない。

日傘を差したい。何なら自転車に乗ってるおばさまよろしく日よけ腕カバーをかけたいくらいだ。
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