溺愛MOON
「ちっこい土砂崩れがやっぱりあったでな。片付けしとって遅くなったんだわ」

「土砂崩れって……、高橋さんの家ですか!?」

「あぁ。でももう道は通れるようになったで大丈夫」

「高橋さん大丈夫ですか!?」

「ん? あぁ~。バァさんは避難所から勝手に戻ろうとして転んで足挫いただけ」

「えっ!? 怪我しちゃったんですか!?」

「年寄りは骨が脆いでイカンわ~」

なんて高橋さんは呑気に言ったけれど、私はあの小さな身体の高橋さんが怪我をしたかと思うだけで、心配で胸が苦しくなった。


「あの、あの私、お見舞いに……」

「あぁ~? 大丈夫だ、近所の皆で見てるし。大げさにするとまた調子乗るでよぅ」

やんわりと止める中条さんの声を背中に、私は高橋さんの家目指して駆け出していた。


観光案内所の周りは大分綺麗に片付けられていた。

観光産業が命の島だから、皆総出で片付けたんだろう。


細い石階段を高橋さんの家目指して駆け上る。

私の勢いに野良猫達が飛び退いて、家の塀を駆け抜けて行った。
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