溺愛MOON
山に面した小道に入ると道は泥だらけになっていた。

けれどちゃんと通れるように片付けられていてもう土砂はない。


「高橋さん」


高橋さんの家も平屋の木造で、その古さは長屋とたいして変わらない。

私は引き戸をバンバン叩いて、ガラリと戸を開けた。


私は習慣的に家の鍵をかけるけれど、この島の人たちは家にいる時玄関の鍵をかけていないことが多い。

高橋さんの家も鍵がかかっていなかった。


「高橋さん!」


大きめの声で呼びかけると、「はいよ~誰だったかね」と奥から高橋さんの声が聞こえた。

その声のトーンが弱々しいものじゃないことにホッとしながら「お邪魔しますっ」と勝手に家に上がった。

足を挫いている高橋さんは動けないのかもしれないと思ったから。


土間を上がってすぐの和室に高橋さんは座っていた。

片方の足を正座してるみたいに折って、もう片方は座布団の上に投げ出している。

その足首には包帯がぐるぐる巻きにされていて痛々しい。
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