放課後センチメンタル


「……一個、倒れて零れてた」



ひまりが言う。


何かの拍子にぶつかったのだろうか。

心当たりはあるようなないような。
なぜならあの時の出来事は僕にとってあまりにも一瞬で、コップを倒したのかどうかの記憶すらないからだ。



「そっか。ひまり、ありがとう」



もちろん、倒れたことに気づく余裕もない。


二つ並んだコップをじっと見つめる。

並々と麦茶が注がれたものと空っぽのそれ。


ーーそんなものでさえもまるで、僕と彼女を表しているようで。

倒れたコップはきっと僕が手に取るはずだったんだろう、なんて訳の分からないくだらないことを考えてしまった。

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