ソラナミダ
「…まあ、晴海の方は、体調不良ということにして仕事をキャンセルしたそうだから…さほどおおごとにはならないようだけど。」
「…待って下さい。なぜ木村さんは…彼が関与していると?」
「……。晴海が動くのは…、あの女の為ばかりだから。」
「………。恋人同士だと…知っていたんですか?」
「………。ある意味、それより深い絆があるかもな。」
「…………?」
「…俺にとって、晴海は親戚みたいなもんで…、奴のことは大概知っている。けど、お前の隣りの部屋に越していたことは……あの時まで知らなかった。聞かされもしなかったなぁ。」
「…………。」
「菱沼いちかが焦る理由はよく解る。お前があいつの近くにいることで…、奴は少し変わっていったからな。」
「…変わった……?」
「よく…笑うようになった。それから、感情を…見せるようになった。以前のように、愛想笑いを浮かべるんじゃなくて、要領よく人に合わせよいとするんじゃなくて……。」
「……思い違いでは…?」
「…その方が…丸くおさまるんだけどな。あいつ…、昨日、菱沼いちかを探していた。そのタイミングで、お前とコンタクトをとろうだなんて…お前が彼女が失踪した原因であると思わずにいられなかったんだろうな。つまりは……、晴海とお前に何かしらがあった。晴海もそれを…自負している。」
「木村さんの思う何かって…?」
「………。身体の関係。」
「…それは…、ないです。」
「…なら、もっと深い心理的な部分で…親密なものがあった。それを…否定できるか?」
「…………。」
「……俺からも、忠告しておく。むしろ…こんなことになる前に、言うべきだった。……お前らには…互いに相手がいる。今ならまだ間に合う。手を…ひいてくれ。」
「……え?」
「晴海がお前をどう思っているのかは知らない。だけど、あいつだけは…やめておけ。深入りするんじゃない。」
「………。どうして…?」
「聞きたければ、あいつに聞け。」
「そこまで言うなら、最後まで教えて下さい。もう…今更、どうしようもないです。起きてしまったことは…取り消せません。ケリを…つけなければならないんです、ちゃんと。」