ソラナミダ
この日の帰り……
会社を出たその瞬間に、博信に呼び止められた。
「……ごめん、昨日電話に出れなくて……。」
必死に頭を下げるのは…、
それだけが理由ではない。
そんなことは……
言葉がなくてもわかる。
「……わこ。俺、昨日……」
「博信。いいの、もう。謝らないで。」
「……けど……。」
「美帆の言う通り……、私は貴方を裏切っていた。」
「………!」
「昨日……、私は違う男の人といたの。」
「……それは……」
「……。ただの隣人。……じゃ…もうない。」
「………。」
「…昨日だけじゃない。友達のふりして一緒にいたいと思ったのは…私。」
「……いつから……。いつからなんだ?」
「多分あの人と出会った頃から…。勝手に惹かれていった。手が届く相手じゃないと知りながら…やめられなかった。」
身体の関係とか、そんなのは別にして……
心の中には、ずっと…あの人がいた。
「……プロポーズしてくれたことは…、嬉しかった。必要とされるのが…嬉しかった。けど…、罪悪感がずっとあった。だから…、博信が美帆を選んで…、当然だと思う。」
「……違う…、違うんだ、わこ。」
「………。もし、誤解だとしても…弁解しなくていいの。」
「……え…?」
もうこれ以上…、失うものなんてない。
どんなにからっぽになろうと、
自分にケジメをつける。
二度と…誰も傷つけないように。
「プロポーズは…受けられない。」
「…………。」
「…受ける権利もない。」
「…それは俺が判断することで、お前に少しでも俺への情が残されているなら…それでいい!」
懇願する瞳。
腕を掴むその力は強くて……、
その分、切なかった。
「……博信。貴方はこれで…思い残すことなく、会社を離れられる。」
「……わこ!」
「私はきっと生涯…貴方を尊敬し、感謝し続けると思う。ここで踏み留まっていたら…お互いに前に進めない。」
「…………。」
「…。好き…だったよ。」
「それは…、『過去形』…?」
「…もう、嘘を…つけない。」
「お前はこれから…その男の所に行くの?」