ソラナミダ
「平瀬ーッ!2番にサイトウ製菓営業の高谷さんから電話!」
「はいっ。」
「平瀬さん、この商品サンプル…」
「あ、個数確認して会場に運んでおいて。」
「わこ、この前の清野ガラスの広告だけど…」
「あ~、ちょっと待って。電話が終わってからでいい?」
ん……?『わこ』…?
いつもの…日常。
忙しく仕事に打ち込む最中に、久しく聞く声が…あった。
「はい、お待たせしましたー…平瀬です。」
電話をとりながら、ちらり。と…その声の主を見る。
美帆……。
彼女は、私に背を向けるようにして……
手に持つ資料を眺めていた。
「……ええ。3日までには。……はい、はい……。わかりました、では明後日そちらに伺いますので。……はい、失礼しまーす。」
…………。
「…美帆。ごめん…、何だった?」
彼女はキマリの悪そうな顔をして。
「…これ。」
……と、資料を手渡してきた。
「これだと光が反射してイマイチだって。CG加工でいくか先方と再度確認お願いしたいんだけど…。」
「……そう。…ん、わかった。」
「…じゃあ…。」
くるり。と背を向ける美帆の腕を……
思わず掴む。
「…あのっ…。」
「…………。」
「……色々と……、ごめん。」
「…………。謝らないで。アンタに謝られたら…、私はもっと悪者になる。」
「…美帆……。」
「お互いに…、したいようにした。…それだけ。」
「…だけど……。」
「仕事中くらいは普通にして。」
「………。」
「してしまったことは…どうにもならない。なかったことには……できない。」
「だけど、私は…謝りたい。どうにもならなくても……わかってもらえなくても…。」
「………。……じゃあね。」
「……美帆!」
呼び止めるけれど……
彼女は行ってしまった。
けれど……どんなに遅くても、許してもらえなくても、気持ちだけは……
伝えたかった。
冷静になってみると……
色んなことが、見えてきた。