ソラナミダ
加藤ちゃんを家まで送り届け、
その、タクシーの車内で……
「おねーさん、久しぶりですね。いつもご利用ありがとうございます。」
運転手さんが、私に話し掛けてきた。
「…すみません、いつも酔っ払いで。」
「いえいえ。私はあまりお客さんの顔覚えてる方じゃないんだけど…、おねーさんは美人さんだからね。」
「……あざーっす!」
上手い商売だなあ。
酔っ払いだから、こんな社交辞令さえ嬉しくなっちゃうよ。
「おねーさんもそうだけど、以前、よくウチのタクシーを利用する男性の方がいてさあ…、その方が偉いオトコ前で。」
「……。……へぇ~…。」
「ここんとこ、あまり乗らなくなって寂しいワケですよ。」
「…………。」
「同じような話を…彼にもしたことがあって……。」
「…………。」
「彼がね、多分貴方は自分の知り合いじゃないかなって言っていたんだよね。」
「……え…?」
「二人共いつも同じ場所で降りるから、そうかなあって思ったりもしたけど…ふざけて、聞いてたんだよ。もしや恋仲だったりするの?って。」
「……………。」
「いつもはぐらかさてればっかりだったけど、この前久しぶりに乗ってきてさ、酔っ払ってたのか、彼が…ポロっと言っちまったんだよね。」
「え…?」
ちょと待って……?
「おじさん、びっくりしちゃったよ。いやあ、長年この仕事してるけど…こんなスキャンダラスはないね。」
「……?あの…、その『彼』は…なんて?」
「……あはは、後は本人に聞いて下さいね~?プライバシーに関わりますから、私が言えるのはここまでです。偶然とはいえ、私がもしキューピッドになった果てには……どうぞますますご贔屓にお願いしますね。」
「………。気になります。」
「ダメダメ、私は口がかたいんですよ~。」
「…って、そこまで言っておいて?!」
「わはは、私、まどろっこし~のは嫌いでね。でも、あくまでただのドライバーですから!」
「…………。」
おじさんは、呑気に笑っているけれど……。
冷静に考えたら、マンションの住人なんて腐る程…いるんだ。
しかも、第3者を通して……お互いを確実に認識できる可能性なんて、極めて……薄い。